伊達の黒箱 寛文事件の公文書が仙台市博物館企画展に展示

大正10年に大槻文彦の『伊達騒動実録』(以下『実録』)を否定し、原田甲斐忠臣説を世に問うた『先代萩の真相』が岩手県磐井郡出身の田辺実明によって著された。この『先代萩の真相』(以下『真相』)は、『実録』を読んだ田辺が、その膨大な史料の解釈に異論を持ったことが、書かれた動機であったという。すなわち、『真相』は『実録』の史料を前提にして書かれている点、またその内容と量から見て、伊達騒動第一の研究書である『実録』に相対する書として位置付けられるものといえる。

『真相』が書かれたもう一つの動機をつくったのが、幕末の仙台藩若年寄から仙台藩大参事になった増田繁幸に聞かされた以下の話であったという。「明治4年頃、増田は伊達家が代々厳重に保管してきた黒塗りの箱に収められた文書を点検する機会があった。文書の中身は寛文事件の秘文書で、これまでの通説を真っ向から覆すものであった。それは、伊達安芸が伊達式部との谷地境界争いに敗れた恨みから、幕府に提訴を企て、その実現の手段として兵部・甲斐らに対する非難・流言を利用したとあり、審問に召還された甲斐は、安芸の行為に憤激のあまり刀を抜くに至ったという内容であった。」

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『仙台市博物館 企画展「館蔵名品 百選」の展示品リストにある「伊達の黒箱」』

田辺はその後、黒箱を調査すべく伊達家に所在を照会したが、これを見つけ出すことができなかったという。一方、大槻も『実録』の中で、「明治23、4年頃、旧仙台藩士矢吹薫(やぶきただすけ)が仙台国分町の書店伊勢斎助(静雲堂)のもとに、白木のすすけた箱を持ち込んだ。中には寛文11年酒井邸での刃傷以後の関係文書いっさいが収められていた。維新の際、藩から払い下げられたものであり、伊勢はこれを買い取り、明治26年に伊達伯爵家に献上した。」と書いている。

『真相』の黒塗りの箱と、『実録』の白木のすすけた箱は果たして同じものなのだろうか?昭和47年徳間書店より発行された『伊達騒動と原田甲斐』を著した小林清治は、「質素と日はんよりは、寧ろ疎末の品」と伝わる黒塗りの箱と黒くすすけた白木の箱を、その外観と増田の証言から同一のものであろうと推測している。

献上された黒箱は、戦後伊達家から仙台市に移管され、現在は仙台市博物館に収蔵されている。その内容は確かに、大老酒井邸での凶事以後の仙台藩公文書ではあるものの、その表現は必ずしも他の関係文書と異なる性質のものではない。事件の解釈を、この文書によって覆す、というものでもない。おそらく、厳秘にわたる文書は、すでに当時焼却されてしまったことだろう。(『伊達騒動と原田甲斐』より)

この「伊達の黒箱」と呼ばれる木箱と収められた公文書が、現在仙台市博物館が企画展示している『館蔵名品 百選』にて公開されています。先日、私も見学してきましたが、木箱の中に丸めて封印された公文書が収められた形での展示となっているのが残念でした。全てでなくても、公文書の中身を確認できるようなものだったらと思います。

さて、その黒箱の上書きに「寛文拾一年六月ニ日 各務采女、田村図書、大町?(権左衛門 小姓頭)」の署名を読むことが出来ます。この三名は伊達家江戸藩邸の庶政を預かっていた者達で、4月15日に宇和島藩邸から帰還した国老古内志摩が彼らに代わるまで、藩邸を取り仕切っていました。凶事のあった3月27日から4月15日まで、仙台藩邸で交わされた文書が6月2日に各務、田村、大町の3名により封印され、御納戸御宝物方に移された事も上書きとして書かれています。

「伊達の黒箱」が、どのくらいの頻度で、博物館で公開されてきたのかは知りませんが、非常に貴重な所蔵品であることは間違いありません。それを見学でき、私的にはとても有意義な時間を過ごすことが出来ました。なお、この展覧会は、東北大震災で被災した東北地方復興への祈念と、博物館を支えていただいている仙台市民への感謝の気持ちとして企画されています。博物館が所蔵する名品の数々から選ばれたベストセレクションという珍しい内容で、多くの方々が足を運びやすい企画展ともいえるでしょう。なお、期間を前期と後期に分け、内容を一新するとのことです。「伊達の黒箱」に興味がある方は、前期日程が9月4日までとなっておりますので、お早めに。入場料金は常設展示も含めまして400円という破格です。復興に向けて、力強く前へ進もうとしている東北の思いも感じられます。ぜひ、お越し下さい。(1)

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詳しい情報は仙台市博物館ホームページにて http://www.city.sendai.jp/kyouiku/museum/

(1)展示品には、人気のある政宗公所用の黒漆五枚胴具足をはじめ、ユネスコ記憶遺産へ推薦された慶長遣欧使節関係資料、坂本龍馬や土方歳三の手紙までもあります。

参考文献

「伊達騒動と原田甲斐」小林清治

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コメント

  1. もにょち より:

    はじめまして!!
    nice!&コメント、ありがとうございました☆彡
    仙台出身ですが、博物館の所蔵品って、意外と知られていないものが多いですよね…。
    こういった形で展示してくれる機会が増えること、切に望みます!!

  2. Yubarimelon より:

    もにょちさん、コメントありがとうございます。
    仙台市博物館のHPで、全てではありませんが所蔵品を閲覧する事が出来ます。もっとも、それらがいつ展示されるかとなると、やはり小まめにチェックすることが必要かもしれません。
    また、ブログ読ませていただきます。

  3. Yubarimelon より:

    記事を最後まで読んでいただいた皆さん、ありがとうございます。

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