中沢琴女 新徴組隊士として庄内戦争を戦った男装の女性剣士

幕末に実在した法神流女性剣士中沢琴のドラマ「花嵐の剣士~幕末を生きた女剣士・中澤琴~」がNHKBSプレミアムで1月14日に放送される。主演の琴に黒木メイサさん、兄である新徴組隊士中沢良之助に筒井道隆さん、同じく新徴組隊士沖田林太郎に宅間孝行さんがキャストされている。

生立ち

中沢琴は上州穴原村(現群馬県沼田市利根町穴原)の生まれ、位牌、過去帳や村の人別帳からも生年月日は判っていない。しかし、兄である良之助貞祇が天保八年生まれなので、それより少し年下であろう。幼少時より父孫右衛門貞清から法神流剣術を学び、特に長刀に関しては父にも劣らなかった。身長五尺六寸(約170cm)、風貌は面長で色白であったという。

文久三年正月、琴は強引に良之助について江戸へ行き、同年三月清川八郎の上洛浪士隊に男装して加わったとされている。

法神流剣術

琴が修めた法神流剣術とはどのような流派なのだろう。

群馬県渋川市金山八幡宮に建つ法神流伝来碑によると、流祖楳本法神は、室町時代の加賀国守護大名富樫氏の一族だとあり、父より剣術を学んだ後、名を法神と改め諸国を遊歴、長崎で医術も修めたとある。晩年に上州赤城山麓に住込み、村人に医術を施しながら剣術も教授したと伝わる。門弟は数百人にも達したようだ。(1)

法神流剣術には飛び切りの術というものがあり、これは座敷に座っていて即座に立ち上がり天井を蹴るほどの跳躍力を発揮する技だという。

男装して浪士隊に参加

話を戻し、中沢琴が文久三年の浪士隊に男装して参加したという確かな証拠はない。当然、男装していたなら変名を用いていたと思われる。浪士隊の名簿から一人づつ確認したが、兄良之助の六番組に長沢千松という人物がいる。あくまで推測ではあるが、琴の変名のような名だと思うのは私一人ではないだろう。(2)

浪士隊は京に到着後、一部を除き即座に江戸へ帰還している。同年四月十三日に清川が殺害された後、隊幹部の逮捕や解任があり、残った者たちは庄内藩御預かりとなりここに新徴組が誕生した。

長沢千松は琴の変名?

長沢千松に関しては、慶応元年六月江戸飯田町黐木坂に新徴組の屋敷が完成しているのだが、隊士の屋敷(長屋)図を見ると何故か長沢の両隣だけが空き屋になっているのを確認できた。他にも空き屋はあるが、下士で両隣空き家というのは長沢の所だけである。別段、長沢が男装した琴でなくともあり得る話ではある。しかし、兄良之助が剣術指南で一番隊伍長という役に就いていたこともあり、妹を配慮したものという可能性も捨てきれない。この屋敷図を眺めていて、何故か長沢の屋敷の配置だけが他の隊士たちとは異なる印象を受ける。もちろん、私の個人的な想像に過ぎないが。(3)

また、この屋敷に移った際作られた隊士名簿によると、長沢の生年月日は弘化四年とある。仮に琴と同一人物であるなら、兄良之助とは十歳違いであったということになるはずだ。

新徴組隊士として庄内戦争を戦う

慶応三年十二月二十五日、三田薩摩藩邸焼討事件に琴は出動している。新徴組は三田小山町の薩摩支藩日向佐土原藩邸を奥詰銃隊と共に急襲し、潜伏していた27人の浪士を捕縛した。この時琴は左足の踵を切られる怪我を負ったと地元では伝えられている。

庄内藩は戊辰戦役を最後まで抵抗したが、 降伏の後、紆余曲折を経て多額の賠償金を支払うことで転封を回避することに成功した。そして、明治四年七月の廃藩置県発令に伴い常備兵の解散を命ぜられたが、新徴組隊士たちはその後も旧藩士らと共に後田山(松ヶ岡)の開拓事業に従事させられた。良之助と琴の兄妹もこれに従い、明治六年暮れにようやく二人は穴原村に帰郷した。

琴はその後の人生を独身で通した。婚姻の申し出は多かったが、自分を打ち負かすことの出来る者以外には嫁がないと決めていたため、誰一人相手にならなかったのは云うまでもない。晩年、酒をたしなむと詩を吟じ剣舞を舞った。昭和二年十月十二日にその生涯を閉じている。

参考文献 群馬人国記(利根・沼田・吾妻の巻) 岸大洞著他、別冊歴史読本「新選組・彰義隊・白虎隊」のすべて

注釈

(1)楳本法神の弟子須田房吉を主人公に津本陽が「天狗剣法 須田房之助始末」を著している。

(2)六番組には後に新選組を結成する近藤勇をはじめ試衛館道場の面々も名を連ねている。

(3)もっとも、新徴組が庄内鶴岡に移り拠点となった大宝寺村の屋敷図では、長沢の両隣には普通に隊士があてがわれてる。

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コメント

  1. 須田昭司 より:

    突然の書き込みをお許しください。
    花嵐の剣士について、記事にしていただきありがとうございます。
    私は、花嵐の剣士の撮影に当たって協力させていただいた法神流伝承会のメンバーの一人です。
    いよいよ放送が近づいてきましたが、関連番組として
    「もう一つの新選組〜“新徴組”と幕末の江戸〜」という番組も制作されています。
    http://www.nhk.or.jp/bs/bsguide/bsp.html
    すでに2つの番組の宣伝CMも地上波で流されています。
    新選組と比べるとあまり知られてこなかった新徴組や中澤兄妹について多くの方に知ってもらえればと思っています。ご協力をよろしくお願いします。

  2. Yubarimelon より:

    須田さん、コメントありがとうございます。
    ぜひ、特番の方も観させていただきます。

  3. 村田英紀 より:

    歴史の表に 知られていなくて しかも女性で強い信条 信念で生涯を生き抜いた 人物が実在した事実に とても深い感動を覚えてます。有り難う御座いました、中沢兄妹のお墓参りをしたいおもいになります。

  4. Yubarimelon より:

    村田さん、コメントありがとうございました。
    今回のドラマをきっかけに中沢琴や法神流剣術への関心が大きく高まったはずです。今後の研究が一層進むことを期待しています。

  5. 松本 満 より:

    今回放映された「花蘭の剣士 中沢琴」で初めてこの様な女の武芸者がいる事を知り感銘を受けました。 時代は変われど今では日本の海上自営戦闘艦の艦長ですら3艦も艦長に女性がいます。 そして皆美人の艦長・・・・何か今の時代に生きる男性よ負けるなと云いたいです。

  6. Yubarimelon より:

    松本さん、コメントありがとうございます。

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